第1回|
創業100年超の堺打刃物メーカーが教える
本質から学ぶ包丁の選び方【基礎編】
包丁は、料理をする人なら誰もが使う道具です。
一方で、その選び方を体系的に学ぶ機会は意外と多くありません。料理人も経験の中で学び、料理好きの方も情報を集めながら、自分に合う一本を探しています。
だからこそ、包丁選びでは「何を買うか」よりも、「どのような順番で考えるか」が大切です。
この記事では、100年以上にわたり堺打刃物に携わってきた私たちが、包丁選びの基本から、料理人が実際に大切にしている考え方まで、本質を分かりやすく解説します。
STEP 1|
まず「どんな料理をするか」を考えましょう
包丁選びで最初に考えるべきなのは、「和包丁か洋包丁か」「ステンレスか鋼か」ではありません。
どんな料理を作ることが多いのか。
実は、これが最も重要なポイントです。
例えば、毎日の家庭料理では、肉・魚・野菜を一本でこなせる三徳包丁が最も使いやすいでしょう。一方、肉料理や洋食をよく作る方は牛刀、果物や細かい作業が多い方はペティナイフ、魚を一匹丸ごとさばくなら出刃包丁や柳刃包丁が活躍します。
つまり、「どの包丁が一番良いか」ではなく、「どんな料理を作るかによって最適な包丁は変わる」ということです。
料理人も、実はこの考え方で包丁を選んでいます。
ただし、料理人は調理工程や切断面、作業効率まで考え、一つの料理でも複数の包丁を使い分けます。一方、ご家庭では、まず自分が最もよく作る料理に合った一本を選ぶことが、失敗しない包丁選びの近道です。
このあとは、それぞれの包丁の特徴や違いを順番に見ていきましょう。
迷ったら三徳包丁から始めましょう。
家庭で使う包丁としては、肉・魚・野菜を幅広くこなせる三徳包丁が最も万能です。包丁を初めて購入する方や買い替えを検討している方の多くは、まず三徳包丁を選べば間違いありません。
一方で、料理のスタイルによっては牛刀やペティナイフ、和包丁の方が適している場合もあります。次のSTEPでは、それぞれの包丁の特徴と違いを詳しく解説します。
STEP2|
三徳包丁?牛刀?まずは「包丁の種類」を選びましょう
STEP1では、「どんな料理を作るか」で包丁を選ぶことが大切だとお伝えしました。
次は、その料理に合った包丁の種類を選びます。
家庭用から料理人向けまでさまざまな種類がありますが、それぞれ得意な用途が異なります。
●三徳包丁|迷ったらまずこの一本
肉・魚・野菜のすべてに対応できる、日本で最も普及している万能包丁です。
一本でほとんどの家庭料理に対応できるため、初めて包丁を購入する方や買い替えを検討している方には、まず三徳包丁をおすすめします。
こんな方におすすめ
・初めて包丁を購入する
・一本で幅広く使いたい
・毎日の家庭料理が中心 
●牛刀|料理好き・本格派に人気
牛刀は、もともと西洋料理で使われてきた万能包丁です。
刃先が細く、刃渡りも長いため、大きな肉や魚を切ることが得意です。また、引き切りや細かな作業にも向いています。
最近では家庭でも牛刀を選ぶ方が増えており、洋食や肉料理をよく作る方には特に人気があります。
こんな方におすすめ
・肉料理をよく作る
・洋食が多い
・大きな食材を切る機会が多い 
●ペティナイフ|三徳包丁の相棒
果物の皮むき、野菜の飾り切り、薬味などの細かな作業に適した小型の包丁です。
三徳包丁では少し大きいと感じる場面を補ってくれるため、「二本目の包丁」として非常に人気があります。
●出刃・柳刃|魚料理を楽しむなら
魚を丸ごとさばくなら出刃包丁。
刺身を美しく引くなら柳刃包丁。
どちらも和食の料理人が長年使い続けてきた専用包丁です。
魚料理を本格的に楽しみたい方は、この2本があると料理の幅が大きく広がります。
迷ったら、まずはこの組み合わせ
・初めての一本
→ 三徳包丁
・料理好きなら
→ 三徳包丁+ペティナイフ
・本格的に料理を楽しむなら
→ 牛刀+ペティナイフ
・魚をさばくなら
→ 出刃包丁+柳刃包丁
次のSTEPでは、「和包丁」と「洋包丁」の違いを解説します。
実は、三徳包丁や牛刀は「洋包丁」、柳刃や出刃は「和包丁」に分類されます。
構造や切れ味、得意な料理が異なるため、それぞれの特徴を知ることで、自分に合った一本がさらに選びやすくなります。
STEP 3|
「和包丁」と「洋包丁」の違いを知る
包丁は大きく「和包丁」と「洋包丁」に分けられます。この違いを知ると、「なぜ柳刃は刺身に向き、牛刀は肉料理で活躍するのか」が自然と分かるようになります。
●和包丁|片刃の鋭さ
和包丁の最大の特徴は「片刃」であることです。
表面は傾斜のついた刃、裏面はほぼ平らという非対称な構造により、刃を非常に薄く鋭く仕上げることができます。そのため、食材の細胞をつぶしにくく、刺身や野菜の断面を美しく仕上げる「引き切り」を得意とします。
和食では、見た目や食感も料理の大切な要素です。和包丁は、その繊細な仕事を実現するために発展してきました。
伝統的には炭素鋼(鋼)が多く使われており、優れた切れ味と研ぎやすさが魅力です。一方で、錆びやすいため、使用後は水気を拭き取るなどの日頃のお手入れが欠かせません。
代表的な種類:柳刃(刺身)、出刃(魚さばき)、薄刃(野菜)
●洋包丁|一本で幅広く使える万能包丁
洋包丁は「両刃」が基本です。
左右対称に刃が付いているため、押し切り・引き切りのどちらにも対応しやすく、肉・魚・野菜など幅広い食材を一本で扱えるよう設計されています。
和包丁のように一つの用途を極めるというよりも、扱いやすさや汎用性を重視した包丁といえるでしょう。
現在、ご家庭で使われている包丁の多くはステンレス製の洋包丁です。錆びにくく、お手入れがしやすいため、毎日の料理でも安心して使うことができます。
代表的な種類:三徳、牛刀、ペティナイフ
最近では、和食のプロが和包丁と洋包丁を組み合わせて使うケースも増えています。
例えば、魚をさばくときは出刃包丁、刺身を引くときは柳刃包丁、肉や野菜の下ごしらえには牛刀を使うなど、それぞれの特徴を活かして使い分けています。
どちらが優れているということではなく、それぞれに得意な役割があります。料理や食材に合わせて使い分けることが、本来の包丁選びの考え方です。
迷ったら覚えておきたいポイント
・美しい切断面や繊細な仕事を重視するなら「和包丁」
・一本で幅広く使いたいなら「洋包丁」
料理人もこの考え方を基本に、料理や用途に合わせて包丁を選んでいます。
和包丁と洋包丁の違いが分かったら、次に気になるのが「どんな鋼材を選ぶか」です。同じ三徳包丁や牛刀でも、鋼材によって切れ味や錆びにくさ、メンテナンス性は大きく変わります。次は、多くの方が迷う「鋼」と「ステンレス」の違いについて解説します。
STEP 4|
「鋼」と「ステンレス」、どちらを選ぶ?
包丁の種類が決まったら、次は鋼材(こうざい)を選びます。
包丁の切れ味やお手入れのしやすさは、鋼材によって大きく変わります。
まず覚えていただきたいのは、鋼材は大きく「鋼」と「ステンレス」にわかれますが、どちらが優れているというわけではないということです。
料理のスタイルや、どれくらい手入れに時間をかけられるかによって、最適な選択は変わります。
鋼(炭素鋼)│切れ味の頂点
鋼は、料理人に長く愛されてきた伝統的な鋼材です。
非常に鋭い切れ味と研ぎやすさが特徴で、使い込むほど自分の手に馴染んでいきます。刺身や野菜など、切断面の美しさを重視する料理では、その性能を実感しやすいでしょう。
一方で、水分や酸に弱く錆びやすいため、使用後は水気をしっかり拭き取るなど、日頃のお手入れが必要です。
こんな方におすすめ
・切れ味を重視したい
・包丁を育てる楽しみを味わいたい
・砥石で研ぐことも楽しみたい
代表的な鋼材:白紙一号・二号、青紙二号、青紙スーパー鋼
ステンレス│お手入れに手間をかけたくない方へ
現在、ご家庭で使われている包丁の多くがステンレス製です。
錆びにくく、お手入れがしやすいため、毎日の料理でも安心して使えます。近年は鋼材の進化により、切れ味や切れ味の持続性に優れた高品質なステンレス包丁も数多く登場しています。
「包丁はよく使うけれど、できるだけ手間はかけたくない」という方には、まずステンレスがおすすめです。
こんな方におすすめ
・初めて包丁を購入する
・手入れを簡単に済ませたい
・毎日の料理で気軽に使いたい
代表的な鋼材:VG10、SG2 粉末ハイス鋼、スウェーデン鋼
迷ったらステンレスから始めましょう
初めて包丁を選ぶ方であれば、まずはステンレス製の包丁をおすすめします。
錆びにくく扱いやすいため、日々の料理でストレスなく使うことができます。
一方で、料理に慣れ、「もっと切れ味にこだわりたい」「研ぎながら長く使いたい」と感じるようになったら、鋼の包丁を選ぶのも良いでしょう。
次は、いよいよ包丁の種類を選びます。
三徳包丁、牛刀、ペティナイフ、柳刃包丁…。
それぞれどんな料理に向いているのかを知れば、自分にぴったりの一本がさらに選びやすくなります。
素材選びの目安
|
鋼(炭素鋼) |
ステンレス |
|
|
切れ味 |
◎ 非常に鋭い |
○〜◎ 十分鋭い |
|
切れ味の持続性 |
◎ |
○〜◎鋼材による |
|
研ぎやすさ |
◎ 研ぎやすい |
△〜○ 鋼材による |
|
錆びにくさ |
△ 手入れが必要 |
◎ 錆びにくい |
|
こんな方におすすめ |
切れ味を楽しみたい方 |
毎日気軽に使いたい方 |
一般的に価格が上がるほど鋼材の品質も上がり、切れ味、サビにくさ、切れ味持続性などが上がります。予算の中でできるだけ品質の高いものを選ぶのが、長く使えるコツです。


STEP55|
あなたに合う包丁の種類を選びましょう
ここまでで、和包丁と洋包丁の違いや鋼材についてご紹介しました。
次はいよいよ「どの種類の包丁を選ぶか」です。
包丁にはさまざまな種類がありますが、すべてを揃える必要はありません。
まずは、ご自身が最もよく作る料理に合った一本を選ぶことが大切です。
牛刀|料理好きに人気の万能包丁
牛刀は、もともと西洋料理で使われてきた万能包丁です。
刃先が細く、刃渡りも長いため、大きな肉や魚はもちろん、野菜のみじん切りやスライスまで幅広く活躍します。
料理好きの方や、洋食を作る機会が多い方には特に人気があります。
こんな方におすすめ
・肉料理をよく作る
・洋食が多い
・一本で本格的に料理を楽しみたい

ペティナイフ|一本あると便利な相棒
ペティナイフは、小回りの利く小型の包丁です。
果物の皮むきや飾り切り、薬味を刻む作業など、三徳包丁では少し大きいと感じる場面で活躍します。
メインの包丁と組み合わせることで、毎日の料理がより快適になります。
こんな方におすすめ
・果物や野菜をよく切る
・細かい作業が多い
・二本目の包丁を探している

出刃包丁|魚をさばくための包丁
出刃包丁は、魚を一匹丸ごとさばくために作られた和包丁です。
厚みのある刃で魚の頭を落としたり、中骨に沿って身を下ろしたりする作業に適しています。
魚を市場や鮮魚店で一匹購入する方には欠かせない一本です。
こんな方におすすめ
・魚を丸ごとさばく
・釣った魚を調理する
・和食を本格的に楽しみたい

柳刃包丁|刺身を美しく仕上げる包丁
柳刃包丁は、刺身を引くための和包丁です。
長い刃を活かして一度で引き切ることで、食材の細胞をつぶしにくく、美しい断面に仕上げることができます。
家庭では必須ではありませんが、刺身をよく作る方には、その違いを実感しやすい包丁です。
こんな方におすすめ
・刺身をよく作る
・和食が好き
・切り口の美しさにもこだわりたい

迷ったら、この組み合わせがおすすめです
・ 初めての一本 三徳包丁
・ 料理好き 牛刀+ペティナイフ
・ 毎日の家庭料理 三徳包丁+ペティナイフ
・ 魚料理を楽しみたい 出刃包丁+柳刃包丁
次は「包丁のサイズ」を選びましょう
同じ三徳包丁や牛刀でも、刃渡りが変わると使いやすさは大きく変わります。
最後に、ご家庭や用途に合ったサイズの選び方をご紹介します。
STEP 6|
「サイズ・重さ・ハンドル」を確認する
包丁の種類が決まったら、最後にサイズ・重さ・ハンドルを確認しましょう。
どれも切れ味には直接関係ありませんが、使いやすさや疲れにくさを大きく左右するポイントです。
サイズ
一般的な家庭用であれば、三徳包丁は165〜180mm、牛刀は180〜210mmが使いやすいサイズです。
小回りを重視する方は短め、大きな食材を切る機会が多い方は長めを選ぶとよいでしょう。
重さ
包丁は軽ければ良い、重ければ良いというものではありません。
軽い包丁は取り回しがしやすく、長時間使っても疲れにくいのが特徴です。一方、適度な重さのある包丁は、包丁自体の重みを活かして食材を切り進めやすくなります。
実際に持ったときに「しっくりくる」と感じる重さを選ぶことが大切です。
ハンドル
ハンドル、毎日手に触れる部分です。
代表的な素材には天然木と積層強化木があります。
天然木は、一つひとつ木目や風合いが異なり、使い込むほど手になじんでいくのが魅力です。木ならではの温かみを楽しみたい方におすすめです。
一方、積層強化木は、木材に樹脂を含浸させて強度を高めた素材です。水や湿気に強く、変形しにくいため、ご家庭でも扱いやすく、多くの洋包丁に採用されています。
どちらが優れているということではなく、見た目の好みや、使う環境に合わせて選ぶとよいでしょう。
迷ったら、この3つを基準に選びましょう
・ サイズ: 家庭用なら三徳165〜180mm、牛刀180〜210mm
・ 重さ: 持ったときに無理なく扱えるもの
・ ハンドル: 握りやすく、長時間使っても疲れにくいもの
次はいよいよ最後です。
包丁を長く快適に使うために欠かせない、「研ぎ」と「お手入れ」の基本をご紹介します。
最後に|包丁を長く使うためのお手入れ
良い包丁は、使い捨てる道具ではありません。
定期的に研ぎ、お手入れをすることで、何年、何十年と使い続けることができます。切れ味が戻るだけでなく、自分の手になじみ、使うほど愛着の湧く一本になっていきます。
研ぐタイミング
毎日使う場合は、2〜3週間に一度を目安に研ぐのがおすすめです。
「トマトの皮が切りにくい」「ネギや鶏皮が滑る」と感じたら、それが研ぎどきのサインです。
砥石の選び方
初めて砥石を購入するなら、#1000前後の中砥石がおすすめです。
日常のメンテナンスには十分対応でき、初めての方でも扱いやすい番手です。慣れてきたら、仕上げ砥石とのコンビ砥石を選ぶのもよいでしょう。
シャープナーは手軽ですが、刃先を一時的に整えるものです。包丁を長く使うなら、ぜひ砥石でのメンテナンスにも挑戦してみてください。